
毎日身につけているアップルウォッチのアルミモデルにふとした瞬間に傷がついてしまい、その消し方や修理費用について検索されている方も多いのではないでしょうか。壁にぶつけたりアスファルトに落としたりした時のあの絶望感、私にも痛いほどよくわかります。特にスペースグレイやミッドナイトのような濃い色を使っていると、塗装が剥げて中の銀色が見えてしまうのが本当に気になりますよね。インターネットで検索すると歯磨き粉やピカールなどの研磨剤を使った修復方法が出てきますが、実はアルミ素材に対してこれらを安易に使うのは非常に危険です。ステンレスモデルとは異なり、アルミモデル特有の表面加工であるアルマイト処理が剥がれてしまい、かえって傷口を広げてしまう可能性があるからです。この記事では、そうした失敗を避けるための正しい知識と、現実的な対処法について詳しくお話ししていきます。
- アルミニウムモデルに研磨剤を使ってはいけない理由とリスク
- ステンレスとアルミで全く異なる傷の対処法と素材の特性
- ついてしまった傷を安価かつ自然に隠すための具体的なアイテム
- 修理や本体交換にかかる費用と買い替えを検討すべき分岐点
アップルウォッチのアルミ傷の消し方と注意点

まず最初に、残念ながら厳しい現実をお伝えしなければなりません。アップルウォッチのアルミニウムモデルについた傷を、新品同様に「消す」ことは、自宅にある道具や市販のグッズではほぼ不可能です。むしろ、ネット上の情報を鵜呑みにして間違ったケアをしてしまうと、取り返しのつかない状態になります。ここでは、なぜ多くの人が失敗してしまうのか、そのメカニズムとやってはいけないことについて、素材の特性から深掘りしていきましょう。
歯磨き粉での修復は効果なしか
インターネット上のライフハック記事や動画で、「スマホや時計の傷は歯磨き粉で消える」という情報を見かけたことはありませんか?実はこれ、アップルウォッチのアルミニウムケースに関しては、ほとんど効果がないどころか、状況を悪化させるリスクを含んでいます。
歯磨き粉には研磨剤が含まれているため、極めて微細なプラスチックの傷や、ガラス表面のコーティングについた浅い汚れであれば、削り取ることで綺麗になったように見えることがあります。しかし、アップルウォッチのアルミニウムは、航空宇宙産業レベルの非常に硬い合金で作られており、さらに表面には硬質な酸化皮膜が形成されています。一般的な歯磨き粉の研磨力では、この硬い金属を削って平らにすることはできません。
ここが落とし穴! 強くこすりすぎると、アルミニウム特有のマットな質感(梨地仕上げ)が摩擦によってツルツルに磨かれてしまい、そこだけ「テカリ」が出てしまうことがあります。傷は消えないのに、光の反射が変わって余計に目立ってしまうという、一番避けたい結果になりかねません。
私自身、過去に古いモデルで試したことがありますが、どれだけ磨いても傷の凹みは埋まらず、結局ミントの香りが漂うだけの時計になってしまった苦い経験があります。過度な期待は禁物です。
ピカールなどの研磨剤は使用NG
ホームセンターなどで手に入る「ピカール」や、海外で有名な「Mother's Mag & Aluminum Polish」といった強力な金属研磨剤。これらは確かに金属をピカピカにする素晴らしい製品ですが、アップルウォッチのアルミニウムモデル、特に色がついているモデルには絶対に使用してはいけません。
その理由は、アルミニウムモデルの表面が「塗装」ではなく「アルマイト(陽極酸化)処理」で着色されているからです。研磨剤を使うということは、表面を物理的に削り取る行為です。これをアルミモデルに行うと、表面の硬いカラー層を削り落とし、下地の「生アルミ」を露出させてしまうことになります。
Mod(改造)としての研磨 YouTubeなどで、あえて全体を研磨して「鏡面シルバー」に改造している動画が存在しますが、あれは傷消しではなく、完全に別のデザインに変える「改造行為」です。これを行うとAppleの製品保証は無効になりますし、酸化しやすい生アルミが露出するため、腐食や汚れのリスクが跳ね上がります。
「傷周辺だけちょっと磨いて馴染ませよう」という軽い気持ちでコンパウンドを使うと、その部分だけ色が抜け、ムラになり、見るも無残な姿になってしまいます。現状復帰を望むなら、研磨剤は選択肢から外してください。
画面と本体の傷の消し方の違い
傷の対策を考える際、「画面(ガラス)」と「本体(アルミケース)」は全く別物として考える必要があります。ここを混同している情報が多いので整理しておきましょう。
まず、画面側のIon-Xガラスについた微細な擦り傷については、実はある程度目立たなくする方法が存在します。それは「UV硬化型のガラスフィルム」や、液体状のコーティング剤を使って、傷の凹凸を埋めてしまう方法です。物理的に削るのではなく、透明な樹脂で溝を埋めて光の屈折を正すというアプローチですね。これは私も試したことがありますが、細かい傷なら驚くほど綺麗に見えるようになります。
一方で、今回のテーマであるアルミケース(側面やベゼル)の場合、不透明な金属素材であるため、透明な樹脂で埋めても傷は隠れません。また、パテのようなもので埋めて塗装するにしても、Apple製品の絶妙な色味や質感を再現するのはプロでも至難の業です。
つまり、画面は「埋めて隠す」ことが比較的容易ですが、アルミボディは「埋めることも削ることも難しい」というのが現実なのです。
ステンレスとアルミ素材の差
「ネットで見た動画では、布で磨いたら傷が消えていた!」という場合、その動画に映っているのは十中八九「ステンレススチールモデル」です。ここが最大の誤解ポイントなんですよね。
ステンレスモデル(特にシルバー)は、表面にメッキやコーティングがない、金属そのものの輝きを生かした鏡面仕上げになっています。そのため、「Cape Cod Polishing Cloths」のような専用の磨き布や研磨剤を使って表面を薄く削れば、傷の凹凸がなだらかになり、再び美しい光沢を取り戻すことができます。金太郎飴のように、削っても下から同じステンレスが出てくるからです。
| 素材 | 表面処理 | 研磨(傷消し) | リスク |
|---|---|---|---|
| アルミニウム | アルマイト(薄い酸化皮膜) | × 絶対不可 | 色が剥げて下地が出る、質感が変わる |
| ステンレス(シルバー) | 鏡面仕上げ(金属そのまま) | 〇 可能 | 削りすぎなければ問題なし |
| ステンレス(黒・金) | DLC/PVDコーティング | × 不可 | コーティングが剥げる |
| チタニウム | ヘアライン/コーティング | △ 難しい | 独特の風合いが損なわれる |
このように、ステンレスとアルミではメンテナンス性が真逆です。「高い時計(ステンレス)でできるなら、安い時計(アルミ)でもできるはず」という直感は、ここでは通用しないことを覚えておいてください。
アルマイト加工が変色する理由
少し専門的な話になりますが、なぜアルミニウムは変色や傷が目立ちやすいのでしょうか。それは「アルマイト処理」の仕組みに関係しています。
アルミニウムは本来、非常に酸化しやすい金属です。そのままではすぐに錆びてボロボロになってしまいます(1円玉が黒ずむのと同じです)。そこで、人工的に表面を酸化させて「酸化アルミニウム」という硬いバリアを作るのがアルマイト処理です。このバリアには目に見えない無数の微細な穴が開いていて、Appleはその穴に染料を染み込ませることで、あの美しいミッドナイトやスターライトといったカラーを表現しています。
つまり、色は「金属の表面数ミクロンの薄い層」にしか存在しません。傷がつくということは、この色のついたバリア層が物理的にえぐり取られ、下にある「着色されていないアルミニウム地金(銀白色)」が顔を出している状態です。だからこそ、特に黒っぽいモデルでは傷が白く浮いて見え、非常に目立つのです。そして、一度失われたアルマイト層は、工場での再処理以外で再生することは不可能です。
アップルウォッチのアルミ傷の消し方より隠蔽

ここまで「修復は無理だ」「研磨は危険だ」というネガティブな話ばかりしてしまいましたが、安心してください。完全に元通りにすることはできなくても、傷を「なかったことにする」、つまり視覚的に隠して快適に使い続ける方法はいくつか存在します。
リスクを冒して研磨するよりも、これから紹介する「隠蔽(いんぺい)アプローチ」の方が、コストも安く、精神衛生上も圧倒的に良い結果を生むはずです。私自身も実践している、おすすめの方法を紹介します。
保護ケースで傷を目立たなくする
最も手っ取り早く、かつ確実なのが「全面保護ケース(バンパーケース)」の装着です。「せっかくのデザインが台無しになるから嫌だ」という方もいるかもしれませんが、最近のケースは驚くほど進化しています。
傷ついてしまった箇所を物理的に覆い隠すことができるので、装着した瞬間から傷は見えなくなります。これは単なる「傷隠し」ではなく、「新しい時計に生まれ変わった」とポジティブに捉え直すチャンスでもあります。
選び方のポイント 傷を隠す目的なら、透明(クリア)なケースではなく、フレーム部分に色がついているタイプを選びましょう。本体と同じ色を選んで馴染ませるもよし、あえて違う色(例えば黒いボディにシルバーのケースなど)を選んで、ツートンカラーを楽しむのもアリです。
SpigenやELECOMといった信頼できるメーカーからは、マットな質感でアルミボディに馴染む薄型ケースや、逆にG-SHOCKのようにタフな見た目に変えるケースなど、多種多様な製品が出ています。傷をきっかけに「カスタマイズの楽しみ」に目覚めるユーザーも意外と多いんですよ。
黒い塗装剥げを補修ペンで隠す
「ケースはつけたくない、裸で使いたい」という派閥の方で、特にスペースグレイ、ミッドナイト、そしてSeries 10のジェットブラックなどの濃色モデルを使っている場合におすすめなのが「タッチアップ(補修)」です。
えぐれて銀色に見えている部分を、黒く塗りつぶして目立たなくするという原始的な方法ですが、遠目には驚くほどわからなくなります。
- 自動車用タッチアップペン: カー用品店で売っている黒のツヤ消し(マットブラック)などが使えます。
- 油性マジック: 一番手軽ですが、アルマイトの黒とは色味が違い、光に当たると紫っぽく見えることがあります。
- アルミニウムブラック(Birchwood Casey): モデルガン愛好家の間で有名な、化学反応でアルミを黒く染める薬品です。
個人的にDIYが得意な方におすすめしたいのは、やはり自動車用の補修塗料か、模型用の塗料です。コツは、付属のハケで塗るのではなく、「爪楊枝の先端」にほんの少しだけ塗料をつけ、傷の凹みにチョンと点付けすることです。決して広げず、傷の穴だけを埋めるイメージで作業すると、はみ出さずに綺麗に仕上がります。
注意点 これはあくまで「カモフラージュ」です。近くで見れば補修跡はわかります。また、アルミニウムブラックなどの薬品は毒性があるため、取り扱いには十分注意し、自己責任で行ってください。
スキンシールで全体を覆う
ケースだと厚みが出るのが嫌、でもタッチアップのような細かい作業も自信がない。そんな方にぴったりなのが「スキンシール」です。これはiPhoneやMacBookでもおなじみの、本体に貼る薄いフィルムです。
最近のスキンシールは3M製の自動車ラッピング用フィルム素材などが使われており、曲面への追従性が非常に高いのが特徴です。これを側面にぐるりと貼ることで、傷を完全に隠すことができます。ケースのような野暮ったさがなく、本来のフォルムを維持できるのが最大のメリットですね。
木目調、カーボン調、レザー調などデザインも豊富なので、傷隠しというネガティブな動機ではなく、「おしゃれのためのスキンシール」として楽しめます。もし失敗しても剥がすだけなので、リスクが低いのも嬉しいポイントです。
修理費用と本体交換の目安
「隠すだけでは満足できない、どうしても元の完璧な状態に戻したい」という場合は、Apple公式の修理サービスを利用するしかありません。ただし、ここで重要なのが「コスト」と「保証状況」です。
Apple Watchの修理は、バッテリー交換などを除き、基本的には「本体ごとの交換」になります。つまり、傷を直すというよりは、傷のないリフレッシュ品(新品同等品)と取り替える形になります。
AppleCare+に加入している場合
これは迷わず「エクスプレス交換サービス」を利用しましょう。過失による損傷であっても、比較的安価な免責金額(モデルによりますが数千円〜1万円程度)で、新品同等の交換機を自宅まで届けてもらえます。手元の傷ついたウォッチは配送業者に渡すだけ。これが最もスマートな解決策です。
保証対象外(AppleCare+未加入)の場合
問題はこちらです。保証がない場合、例えばSeries 9のアルミニウムモデルであれば、修理(交換)費用は5万円〜6万円近くかかることがあります。これは新品の実勢価格とほとんど変わりません。
| モデル | AppleCare+加入時 | 保証対象外(目安) |
|---|---|---|
| Series 9 (Al) | ¥10,700〜 | ¥45,000〜¥59,000 |
| Ultra 2 | ¥10,700〜 | ¥75,000前後 |
| SE (第2世代) | ¥9,200〜 | ¥30,000前後 |
(※価格は変動するため、必ずApple公式サイトで最新情報を確認してください)
正直なところ、保証なしで数万円を払って修理するくらいなら、その傷ついたウォッチを我慢して使い倒すか、下取りに出して新しいモデルに買い替える資金に充てる方が経済的合理性は高いと私は思います。微細な傷であれば、下取り額への影響は意外と少ないこともあります。
正確な修理サービス料金については、以下のApple公式サイトで確認することをお勧めします。
(出典:Apple『Apple Watch の修理サービス』)
アップルウォッチのアルミ傷の消し方総括
ここまで、アップルウォッチのアルミニウムモデルについた傷への対処法を見てきましたが、いかがでしたでしょうか。結論として、アルミニウム素材の特性上、「研磨して傷を消す」ことはリスクが高すぎるため推奨できません。最も賢い選択肢は、「ケースやシールで物理的に隠す」か、「タッチアップで目立たなくする」ことです。
傷がついた瞬間は本当にショックですが、その傷もあなたが日々アクティブに行動している証拠でもあります。完全に直そうとして泥沼にはまるよりも、保護ケースで気分を一新したり、将来的な買い替えを見据えて割り切って使ったりする方が、結果としてアップルウォッチとの生活を長く楽しめるはずです。この記事が、あなたの「傷の悩み」を少しでも軽くし、次のアクションを決める手助けになれば嬉しいです。